中原秀樹 エシカル推進協議会会長(東京都市大学名誉教授)

最近「巨額分散投資家、気候変動に懸念 歯止めに動く年金基金も」(日経産業新聞2018年8月10日)、「石炭火力投融資 日生、全面中止へ」(朝日新聞2018年7月13日)、「石炭火力投融資に厳しい目」(朝日新聞2018年6月29日)、「化石燃料、ゼロへ 関連企業への投資ストップ 経済、金融業界にも波及」(毎日新聞2018年6月5日)、「経産省が恐れるダイベストメント」(日本経済新聞2018年5月8日)などダイインベストメントに関する新聞記事やニュースが話題になっています。ダイベストメント(投資撤退)とは、インベストメント(投資)の逆、つまり、非倫理的または道徳的に不確かだと思われる株や債券、投資信託を手放すことを意味します。

今日はこのダイベストメントがエシカル・コンシューマリズムの始まりであるという話しです。2015年11月6日英国を訪問する機会があり、マンチェスターのEthical Consumerの事務所で設立者のRob Harrison氏から、Ethical Consumerの設立の背景やエシカル運動の将来について話を伺いました。

Rob Harrison (Ethical Consumer)2015年11月6日筆者撮影
Rob Harrison (Ethical Consumer)2015年11月6日筆者撮影

Ethical Consumer設立のきっかけは、南アフリカのアパルトヘイト問題

南アのアパルトヘイトへの反対活動が激化した1980年代の英国はサッチャー首相、米国はレーガン大統領のもと新自由主義の考え方が支配していました。政府は市場に参入すべきではなく、市場の中だけで問題を解決すべきであるという時代で、人権問題や動物擁護などは、政府の問題ではないという態度でした。

反アパルトヘイトのキャンペーンは1975年からボイコット運動が始まっていました。

ボイコット運動は、果物や野菜という商品からスタートし、その後すぐ、南アで仕事をしている会社自体のボイコットへと発展しました。そのような企業にお金を貸している、融資会社や銀行がターゲットになったのです。1986年に英国4大銀行の一つバークレー銀行のボイコットが始まりました。その年、突然バークレー銀行が南アフリカの支店を全部売却し、手を引いたのです。その時のバークレー銀行から出たデータによると、この消費者ボイコットによって市場の15~20パーセントのシェアを失ったと発表されました。

ボイコットの威力がマスコミを通じて伝わり、英国ではボイコット運動が増えていきました。1989年には動物実験、エアゾールの会社等、ボイコットが何百件も出てきました。あまりに多くのボイコットが出てきて皆が混乱しているのが分かったので、「どのボイコットを選ぶべきか」という雑誌が必要とのことから、『Ethical Consumer』が誕生したそうです。


2015年11月6日Ethical Consumerで筆者撮影

Ethical Consumerの名前の由来:“Which?”vs“Alternative Which Guide”

英国には消費者雑誌which?がとても有名でした。当初この雑誌をもじってAlternative Which Guideという名前にしようかと考えていたそうです。「消費者という言葉自体に関心を持ちましたが、英語には無いエシカルとコンシューマーを合わせるというのは、なかなかチャレンジングなアイデアで、珍しいアイデアでした。みんな、最初はethical consumerという文字を見た途端に笑いました。ユーモア雑誌か、何かみたいな感じで。」エシカルとコンシューマーが合わさった言葉は当時なかったのですが、「エシカル・インベストメント」(ベトナム戦争のころ、武器に投資しないというCouncil on Economic Priorities(CEP)のキャンペーン)というものはあったので、そこからヒントを得たということでした。またエシカルを用いた理由は、環境だけじゃなくて、人権や動物が入っているからだということです。


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誰にも公平に与えられるボイコットという選択肢

エシカルな商品を買うだけでなく、買わないというボイコットはお金がなくても、消費者にオプションとして誰にも与えられている行動であるということです。だから貧しくてもアクションが取れないというわけではなく、市場の中で消費者の購買行動の選択肢をまったく与えられないというわけではないと説明してくれました。コインの裏表のように、「良い物は買いましょう、悪い物は買わないようにしましょう」ということです。

Shopping for a Better World

雑誌を出すにあたって、1986年にアメリカで出版されたRating America’s Corporate Conscience: A Provocative Guide to the Companies Behind the Products You Buy Every DayとCEPが1989年に出版したShopping for a better worldなどを参考にしたそうです。CEPはAlice Marlinが1969年に創立し、創立当時ベトナム戦争に関わる企業には自分のお金を投資したくないという投資者の声に応え、べトナム戦争に関与していない企業を調査して投資者に情報を提供していたのです。

まさにエシカルなお金の使い方をするエシカル・コンシューマーは、今日話題になっているダイベストメント、投資の見直しから始まったといえるでしょう。エシカル・コンシューマリズムとは消費者が企業に社会的責任を求め、よりよい社会のために消費者自身がお金の使い方に責任を持つということになります。日本の『三方よし』にはない、買い手の社会的責任を問うという考え方ともいえます。

(了)

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