認定NPO法人アニマルライツセンター 代表理事 岡田千尋

新型コロナウイルスは人獣共通感染症である。既知の感染症の60%が、また近年新たに顕在化する感染症の75%が動物由来であることが分かっている*1*2

こうした中、動物利用について論じないことは次の感染症予防をしないということに等しい。

もともと自然宿主である動物と穏やかな共生をしていたウイルスや菌などの微生物は、何らかの要因で別の宿主に出会い、感染が蔓延する中で猛スピードで進化を重ね、あるとき突然人にジャンプしたり、致死率の高い形に変異したりするのだ。

最初のきっかけとなるのは、人間の営みであることが多いし、ウイルスや菌を進化させるのも人間の営みであることが多い。

最初のきっかけとしては森林破壊や捕獲などにより野生動物の行動や場所が変わることだ。ウイルスは新たな宿主となる動物を探す。狙われやすいのは動物を集約的に飼育する場所だ。最初はその周辺の池かもしれないが、人や換気扇や小動物などに乗じて畜産や毛皮農場に入り込んだら、そこはウイルスにとっては最高の繁殖場になる。集約的な畜産や毛皮農場では動物が密集し、遺伝的にも同等の動物が集まっているため阻むものがなく、次々に感染を広げやすく、同時に世代交代もどんどん行うことができる。

人は自分たちの手でいつか自分たちを苦しめるウイルスや菌を作り続けているにほかならない。

これまでのコロナウイルスのパンデミックSARSやMERSも、人獣共通感染症だ。そしてもう一つ特に注意すべきウイルスはインフルエンザウイルスだ。

豚インフルエンザ(H1N1)

2009年にパンデミックとなったインフルエンザA H1N1(H1N1pdm09ウイルス)、いわゆる豚インフルエンザは、最初の1年で151,700〜575,400人がこのウイルス感染により死亡したとアメリカ疾病管理予防センターは推定している。もともと2005年頃から豚インフルエンザは発生しており、それらは養豚関係者の中で、つまり直接豚と接する場合に限られていた。しかし2009年の感染爆発時には、新型のインフルエンザH1N1ウイルスになっており、人から人への感染に発展した。最初は子供から発症し、今の新型コロナウイルス同様にクラスターが発生し、広まっていった経緯がある*3。

鳥インフルエンザは今も世界中でパンデミックを引き起こして人間が繁殖した動物を人間の手で大量殺処分し続けている。豚インフルエンザのように、いつ、人から人への感染が可能に変異し、さらにはいつ致死率の強いウイルスに変わるかは予測がつかない上、その予防策も取られてはいない。

どのような対策が必要なのか

集約的畜産のような形で、動物を密飼いすることに危険がある。そして動物にストレスを与えずワクチンや抗生物質ではなく動物自身の免疫力で健康を保てる状況にしなくてはならない。

ケージ飼育をやめてできるだけ密飼いを抑え、密飼いの最たるものである鶏肉の飼育を地鶏と同等に変え、豚も妊娠ストールのような拘束飼育をやめ、また過密な飼育ではなく自然な行動ができる飼育環境に変えなくてはならないだろう。

考え方は簡単で、自然からかけ離れた飼育をやめればいいだけなのだ。ウイルスの特性の一つに太陽光に弱いというものがあるのだから、放牧も取り入れ、動物たちが好む屋外環境を整えるほうがより良いだろう。動物たちは人間がどうこうせずとも本来ならば自分たちで健康を保つ方法や知恵や本能的行動を知っているのだ。

これを実践することができれば、2050年には1000万人が死亡すると予測されている薬剤耐性菌*4の被害を多少なりとも抑えることができるかもしれない。

新型コロナウイルスは現時点(2020/5/4)で分かっているだけで25万人の命を奪っている。それでこれだけ社会の持続可能性は失われるのだ。毎年1000万人が薬剤耐性菌で死亡する社会は想像したくない。抗生物質を慎重利用するのは人の社会では当然になってきているが、畜産動物についてはまだそうではない。自然な飼育をしていれば不要な予防的投与が行われているし、特に肉用鶏の場合は数頭が病気になれば数千頭~数万頭単位の群れごと治療されるのが常だ。抗生物質フリーと言っても動物は50日齢のと畜の時期を逃すとバタバタと死ぬような健康状態であり、動物たちはウイルスでもなんでもかかりやすい状態になっている。ただ抗生物質を与えなければいいのではなく、適正に、自然な行動ができ、ストレスなく飼育することが必要なのだ。

4月26日、オランダ政府は新型コロナウイルスが毛皮農場のミンクに感染したことを発表した。1月には北京大学の研究でミンクが中間宿主である可能性も示唆されている*10。2003年に流行したSARSはハクビシンが中間宿主ではないかと言われているが、同時に中国で毛皮動物として多数飼育されるタヌキ(ラクーンドッグ)にも感染していたことが明らかになっている*5*6*7。

感染が終息した後、これまでと同じように動物を搾取するのだろうか。

動物利用を見直していかなければ、感染爆発はいつでも私達のもとにもたらされるだろう。

新型コロナウイルスが畜産に及ぼした影響を最後に少し

アメリカの畜産業にはこの新型コロナウイルスは致命的な影響を与えている。日本も同じだが、食肉処理場では人がすぐ隣に立って仕事をせざるを得ない流れ作業であるため、クラスターになってしまい、従業員が感染し多数の死亡者も出ている。そんな中、米国大統領は食肉処理場に稼働させ続けるようにと指示した。命の問題であるにも関わらず、だ。命令が出されてから、食肉処理場の感染拡大が通常の2倍の速さで進んだとの報告もある*9。この命令は食肉企業の責任逃れにも使われる可能性があるだろう。食肉処理場には移民や外国人労働者が多く働いており、労働問題や人権や人種の問題をあぶり出している。

一方、日本で影響を受けているのは飲食店での利用が多かった地鶏肉だ。安くて密飼いの肉が売れ、地鶏のような飼育基準が明確でアニマルウェルフェアがより高い肉が打撃を受けるのはなんとも残念なことだ。

牛肉にも影響が出ていると言われるが、価格低下は新型コロナウイルスの影響ではなく日米貿易協定の影響で、1月から関税が大きく下がったことによる。もともと補助金の仕組みが非常に充実している産業である。そこにさらに新型コロナウイルスの混乱に乗じて補助金が牛肉関連に2204億900万円もの巨額が投じられることに疑問を感じる。

なお、地鶏には、このような特別な補助金は現在(5/1現在)のところでていない。

*1 https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(12)61678-X/fulltext 
*2 https://www.cdc.gov/onehealth/basics/zoonotic-diseases.html
*3 https://www.cdc.gov/h1n1flu/cdcresponse.htm
*4 https://amr-review.org/
*5 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12958366/
*6 https://www.avma.org/javma-news/2003-07-01/researchers-identify-wild-animal-reservoirs-sars
*7 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19625462/
*8 https://www.cidrap.umn.edu/news-perspective/2003/09/animals-chinese-markets-carried-sars-virus
*9 https://www.detroitnews.com/story/news/nation/2020/05/11/us-meat-plant-areas-see-virus-spreading-twice-national-rate/111689030/
*10 https://www.researchgate.net/publication/338821819_Host_and_infectivity_prediction_of_Wuhan_2019_novel_coronavirus_using_deep_learning_algorithm

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