第1回JEIエシカルラボ(2018年9月27日)より

アニマルライツセンター代表の岡田千尋氏にお越し頂き、アニマルウェアをめぐるアニマルライツセンターの活動についてお話し頂いた。
特に今回は、先月初旬に出された、9人のオリンピックメダリストらによる東京オリパラで調達される畜産物のアニマルウェア向上を求める声明を議題とし、岡田氏にアニマルウェアの概念から日本や海外での現状までお話頂いた。
講義を通して、日本の基準が世界のそれに遅れを取っていることが強調された。

 

 

動物福祉(アニマルウェルフェア)と東京オリパラ調達基準の課題

~動物たちのために私たちにできること~

本講義では、当団体の名称にもなっている「アニマルライツ」ではなく、「アニマルウェルフェア」を議題とする。この二つの概念の違いは明確であり、前者が「動物が、その動物らしくいられる権利」を認め、人が動物を利用する前提に立たない考えである一方で、後者のアニマルウェルフェアは人が動物を利用するという前提での議論となる。
そして利用する上で、動物の生態・欲求を理解し、それを妨げることのない環境で適切に扱うべきであるという考えである。この適切な扱いの基本原則として「5つの自由」の尊重が提唱されており、アニマルライツセンターは人間の支配下にある動物のこれらの自由を達成し、動物たちを苦しみから解放するための活動を行っている。
当団体の活動分野は毛皮に使われる動物、実験動物やペットなど多岐にわたるが、今回は特にオリンピック・パラリンピックの食べ物をめぐる問題について話したい。

先月初旬、9人のオリンピックメダリストから、東京オリパラの調達基準についての声明が提出された。これは、東京オリパラで提供される畜産物の「ケージフリー・ストールフリー100%達成」という、アニマルウェルフェアの配慮を求めるものだった。
これは、現在の日本の基準ではあまりにも低いのではないかという意見であり、世界の基準に比べても日本の遅れを示すものであった。

 

 

豚のアニマルウェルフェア

「ストールフリー」とは豚の飼育時に使用する「妊娠ストール」を使わずに養豚を行うことである。
本来、豚は非常に活発で頭が良く、走り回ったり遊んだりする動物であるが、妊娠ストールの中では豚は横を向くこともできない狭い環境を強いられる。このストールに閉じ込められた豚はストレスにより様々な異常行動をみせる。日本の60%の養豚場が、この幅60㎝ほどのストールに常に豚を閉じ込める「常時ストール飼育」を行っている。これは本来生産性の向上を目的として採用された檻であるはずだが、近年ストールフリーを実施した中国の大手食肉加工会社は、妊娠ストールの廃止によって胎児の死亡率の低下や母豚の生存期間が延び、生産量を増加させることができたと報告した。実際、ストール飼育をひろく行っている日本の豚の成育率は、妊娠ストールを廃止している「畜産先進国」よりも悪く、数値によってもストール飼育の非効率性が証明されていると言える。

 

採卵鶏のアニマルウェルフェア

次に採卵鶏について、こちらも狭いケージの中での鶏の飼育を廃止する「ケージフリー」が求められている。鶏は一般に知られているよりも多彩な本能をもち、様々な欲求を示す動物である。砂浴びをして止まり木で眠ったり、安全な場所を自分で見つけ卵を産む動物だが、現在日本の99%の養鶏場で「バタリーケージ」を採用しており、狭いケージに複数羽収容された鶏はこれらの欲求を満たすことはおろか、羽を広げることも出来ない環境に常時置かれる。
鶏は日常的にケージに挟まり骨折したり圧死したり、仲間の死体の上での生活を強いられる。また日本では、養鶏場から出荷後の屠畜場で首のカットが足りず生きたまま熱湯に入れられる鶏の割合が高いなど、注意することで防げる事故も多く発生しており、アニマルウェルフェアの配慮が足りない場合が多い。採卵鶏を最後まで利用することは良いが、そのやり方を変えることがアニマルウェルフェアの実現のためには重要である。

さらに各研究機関によって、鶏の本能・欲求の実証だけでなく、飼育環境の違いが鶏の骨の強度や栄養素に関係することや、抗生物質などの薬剤使用によって発生する薬剤耐性菌の危険性などが発表されており、人への安全性や地球環境への影響についての警鐘が鳴らされている。そして近年は世界的にケージフリーを推進する動きが広がっている。多くの大手企業がケージフリー宣言をし、投資にもその影響が及び、畜産先進国のEU諸国だけでなく中国、韓国、台湾などでもアニマルウェルフェアの改善に関する法規制が進められている。

 

 

日本においての動物福祉と東京オリパラの調達基準

日本はそれらの国に遅れをとっている現状ではあり、日本の意識調査では86%の人がアニマルウェルフェアの向上に賛同の意思を示し、認知度は低いもののメディア露出などを通してそれについても改善が望まれるが、現段階の東京オリパラにおける畜産物の調達基準は、過去の回に比べても最低基準となっている。
世界的な「Global G.A.P」という調達基準は採用されず日本独自の「JPAG」が策定されたが、それを下回る「ギャップ取得チャレンジシステム」とともに様々な面で緩い基準である。 結果的にバタリーケージの使用、妊娠ストールの使用が許容される内容となった。

日本の現状の畜産においては「5つの自由」のうちの最も基本的な「飢餓と渇きからの自由」さえも担保されていないこともあり、「動物福祉レベル」の評価も他国に比較して低い。これらの飼育環境についての最低限の改善は東京オリパラをめぐる問題を含め至急行われていくべきだが、地球環境への影響を含めた長期的な持続可能な畜産の実現には、生産量の削減やヴィーガンになるなどのライフスタイルの転換が重要であると考える。

 

 

講演資料: スライド資料(アニマルライツセンター)

 

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