日本女子大学教授 細川幸一

コロナ感染が拡大する中で、政府は4月7日に7都府県を対象に5月6日までの期間で緊急事態宣言を発令し、16日には全国に対象を拡大した。だが、「依然、厳しい状況が続いている」という安倍晋三首相の国会答弁にもあるように、全国を対象に緊急事態宣言は1カ月程度延長される見通しとなっている(4月30日現在)。

政府は3密(密閉・密集・密接)を避けて自宅で過ごし、外出を自粛するよう呼びかけているが、自粛要請にもかかわらず一部のパチンコ店が営業を続け、消費者が遠方からも押し寄せ、列をなす風景も報じられた。また、連休中に本州から沖縄に移動する人が数多いことを危惧し、沖縄県の玉城デニー知事は3月26日、ツイッターに「大型連休に沖縄へ来る予定の方が航空会社の予約によると6万人余いる」と投稿し、「どうか今の沖縄への旅はキャンセルして」と呼びかけた。玉城氏は「残念ですが沖縄は非常事態宣言の体制で充分なおもてなしは到底できません」としたうえで、「離島を含め医療体制も非常事態です。受け入れ可能な時期までお待ち下さい」と異例の要望を行った。

エシカル消費は、自らの消費行動が地球上のはるかかなたの環境や労働者にも影響があること等を考慮して、その行動の見直しを求めるものだが、新型コロナウイルス感染という身近で、かつ場合によっては命を奪う危機を目の前にしても消費者が適切な行動を取れない場合があることをこれらは示している。コロナ流行初期の頃にはトイレットペーパーやテッシュの買い急ぎが極端な品不足を起こした。

筆者は数ある消費者問題のなかでも美容医療の健全化に特に関心を持ってきた。自由診療が中心となる美容医療は契約上のトラブルが多く、不要とまでは言わなくても不急の医療である美容医療を、じっくり検討することもなく、安易に施術を受けて高額請求される被害が後を絶たない。その美容医療需要がコロナ流行のなかで増加しているという報道に驚いた。美容外科医院の看護師が受診希望者の多さに、待合室等での感染の恐怖を語る様子を伝える報道もあった。

新型コロナウイルスの感染拡大により、医療崩壊の危機が叫ばれている。医療現場では医師や看護師が激務に追われ、防護服やマスクの不足などもあり、医療資源のコロナ対策への集中は必須だ。患者個人にとっても今、不用意に医療機関を訪問し、混雑することとなれば自ら感染する可能性もある。

なぜ、この緊急時に病気やケガの治療ではない不急の美容外科に受診者が増えているのだろうか。日本美容医療協会の理事長を務めるグリーンウッドスキンクリニック立川の院長青木律医師は「実は今年の2月頃から美容の患者が増えていた。この時期は大学等が春休みに入る時期で、毎年繁忙期で若い患者多い時期だが、今年はスタートが早かった。また3月になりシミやホクロを取りたいという社会人の患者が増えた」という。「会社がテレワークになり通勤しないで済むこと、マスクをしても変に思われず、手術あとを隠せるから、などの理由があると思われる」ということだ。

日本美容医療協会は美容分野の公益社団法人で、こうした状況に危機感を持ち、緊急事態宣言が発せられる前の4月4日に消費者に以下のような美容治療の自粛を依頼する文書を発表した(抜粋)。

美容医療をお受けになろうとお考えの方へ

新型コロナウィルス (COVID-19)感染予防に関する日本美容医療協会からのお願い

現在わが国だけでなく世界中で新型コロナウィルス感染が拡大しています。私たち日本
美容医療協会は責任ある医療者として皆様にお願いがあります。

1) 現在不要不急の外出を控えるように、政府や都道府県から要請があります。美容医療は不要の医療ではありませんが、多くの方にとって不急の医療と考えます。またマスクや医薬品などの医療資源もそれを切実に必要としている現場に優先して使用していただきたいと考えています。手術後の継続的な治療などの必要な場合を除き、今お考えの美容医療は感染が収束するまでお待ちいただきたいと考えます。

通勤不要、マスク着用が当たり前のこの時期に美容外科手術が好都合であることは想像できるが、感染リスクがあること、この緊急時に医療資源をコロナ対策に集中させる必要があることを理解し、控えることが消費者には求められている。

消費者のエシカル度が問われている。

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